ブラジルが世界最強国として君臨する21世紀半ば、静かに凋落した欧州を舞台に展開するドイツの警察サスペンス小説『ドローンランド』。その最大の特色は、ミステリ賞であるフリードリヒ・グラウザー賞とSF賞であるクルト・ラスヴィッツ賞の2冠を獲得(ともに2015年)したことです。これは、以前はSFの領域だったいわゆるサイバー感覚が、社会の一般常識に接近してきたことの表れともいえるでしょう。 ミステリ脳から見てSF世界は「技術で何でもあり」的なズルい世界に映りがちで、逆にSF脳から見てミステリ世界は「ルールに縛り付けられた」堅苦しい世界に映りがちです。ゆえにこの両者の世界を同時にほどよく魅了することは難しい。ミステリ的にアンフェアでなく、同時にSF的インパクトを最大限に活かさなければならないからです。しかし本書は、なかなか上手くこの要件のツボを押さえていると思います。ハイテク的な便利さの陥穽というもの