■戦後の流行(ブーム)から見える出版事情 ジュニア小説と官能小説の世界で活躍した富島健夫だが、いまや忘れ去られた感がある。荒川佳洋の評伝『「ジュニア」と「官能」の巨匠 富島健夫伝』は、富島作品と同時代評を丹念に読むことで、文壇が黙殺したベストセラー作家の生涯をたどり、残された作品に新たな光を当てている。 富島は、ジュニア小説に性描写を持ち込みバッシングを受けた。だが性描写は従来の奇麗事だけの少女小説への批判で、純文学出身の富島にとって、性の悩みを持つこともある若者をリアルに描くためには必要だったとの指摘は興味深い。 外地からの引揚者(ひきあげしゃ)で、依頼があればジャンルを問わず書いた富島の人生は、同じような経験を持つ宇能鴻一郎や梶山季之と重なる。その意味で本書は、戦後の流行作家の背景を考える上でも示唆に富んでいる。 嵯峨景子の労作『コバルト文庫で辿(たど)る少女小説変遷史』は、老舗のコバ