年間取扱高4000億円以上を誇る“世界最大の魚市場”築地市場。海外からの観光スポットとしても注目を集めるが、その華やかなイメージのウラで、どのように巨額の魚マネーが動いてきたかは、これまでベールに包まれてきた。本誌連載「サカナとヤクザ」で密漁という業界最大のタブーを暴いた鈴木智彦氏が、ついに本丸へ潜入した。 * * * 師走の凍てつく午前2時、原付バイクを走らせた。自宅のある練馬から1時間、股引を2枚穿き、作業着にカッパを重ねても体が震える。行き先は世界最大の魚市場──東京・築地の魚河岸だ。ネットで老舗仲卸の求人を見つけたのは1週間前だった。応募すると即決で、翌日から軽子(かるこ)と呼ばれる運搬人として働き始めた。 仲卸は築地に7社ある卸業者から、直接魚を買える鑑札を持った業者のことである。売買参加権の鑑札を持たない業者は、この仲卸を通じてしか魚が買えない。卸→仲卸→小売店→消費者と