今回は、東京文京区本郷にある「瀬川家住宅」を訪ねます。瀬川家住宅は、東京大学工学部の前身にあたる帝大工科大学の初代学長を務めた古市公威の自宅として建てられました。古市公威は“近代土木工学の父”とも称され、明治以降の日本に多大な業績を残した人物です。今回訪ねる邸宅は、長女の結婚相手の実家である瀬川家により大切に継承されてきました。瀬川家住宅の建つ本郷周辺は、明治以降新政府の官僚や東大関係者の暮らす邸宅街でしたが、今やすっかりビル街に様変わりました。そんな中、木立に囲まれた瀬川邸は今や大変貴重な存在です。瀬川邸敷地内はいくつもの棟から構成されています。明治中期に古市によって建てられた主屋。その隣には大正時代に瀬川家によって造られた茶室があります。さらに戦後、もう1つの茶室が離れに建てられ、そのいずれもが極めて上質な造りとなっています。主屋は欧州生活の長い古市らしく、新感覚の和洋折衷。もともと能