第286回 わからない 「曖昧な日本の私」というのは大江健三郎のノーベル賞受賞スピーチであり、これはもちろん「美しい日本の私」を下敷きにした題名であった。一般に日本人は肯定否定の意思表示が不明瞭であるという言い方がされる。Noと言えない日本というやつである。しかし、私はむしろ現代の世相は「わからない日本の私」とよぶのが相応しいように感じる。 アンケートというのがある。さまざまな企業や団体や機関が、さまざまな目的に応じてさまざまな調査をするのだ。例えば、何らかの商品を買うと、「お客さまカード」などという葉書が添えられていることが多く、そこにアンケート調査の質問が載っていたりもする。 質問:あなたはこの製品をどこでお知りになりましたか。 a.テレビ・ラジオ b.新聞・雑誌 c.インターネット d.人から聞いた e.その他( ) f.わからない ここで私がわからないのは「わからない」という選択