番頭はこう言ったのだった。 「上高田というと線路の北ですか? ええ、住所です。あのあたりも随分と変わったでしょうね。はい、ああ私も、といってももう50年も前ですが、あそこの学校にいってたんですよ。ええ。もう学校は無くなりましたけど。南側ですか。住所でいうと。じゃあ線路からは大分離れますか。そうでもないですか。はい、中野の方まではいかないですね。北側は? 北側も上高田だったですね。まあ随分前のことですけどね。あちらは寒いですか」 上高田というのは私のアパートの住所である。私は夕飯を食べ終わって何か酒のツマミとアイスでも買おうかと帳場の脇にあった売店に来て、辛口という柿の種と、アイスが挟まった最中を買おうとしていた。フロントと言えばいいのをわざわざ帳場と言うのは別に私は古い言葉を使いたいというのではなくて、玄関の靴を脱いで上がったところへ大きな字で「帳場」と書いてあったので帳場と言っているだけ