認知症の方は、直前の記憶が失われることで、食事をした直後でも「食事はまだか」「まだ食べていない」と言い、家族が困っていることがあります。そんなとき「何を言っているの! たった今食べたじゃないの!!」と叱りつける介護者を時々みかけます。しかし、本人は「本当に覚えていない」のだから仕方がありません。それは記憶障害という「脳の障害」の症状のひとつです。 「足の障害」がある人に「歩けないこと」を叱っていることと同じです。本人を叱りつけることは、自尊心を傷つけて自信を失わせてしまうこともあります。その結果、自宅に引きこもってしまい、社会とのかかわりがなくなることで、さらに認知機能が低下するという悪循環を引き起こしかねません。 10年ほど前のことですが、長期療養型の認知症専門病院で仕事をしていたとき、朝食直後に病棟にいると「栄養士さん、食事はまだ?」と聞かれることがよくありました。最初は「あら、さきほ