いつも暢気にあくびをして締切次郎とダンスを踊っているだけに見える登美彦氏にだって、悩みごとの一つや二つはあるのである。三つも四つもあるのである。そもそもダンスを踊っている当のお相手である締切次郎こそが原因ではないのかコノヤロウ、くたばれ!と叫ぶようなことは、登美彦氏は大人だからしない。 登美彦氏が執筆した『有頂天家族』という小説に次のような一節がある。 世に蔓延する「悩みごと」は、大きく二つに分けることができる。一つはどうでもよいこと、もう一つはどうにもならぬことである。そして、両者は苦しむだけ損であるという点で変わりはない。努力すれば解決することであれば悩むより努力する方が得策であり、努力しても解決しないことであれば努力するだけ無駄なのだ。 「分かってる!分かってるとも!」 登美彦氏は自分で書いた文章に言い返す。 念のために述べておくが、これは作中の狸が言っていることである。 「狸になり