ずいぶん昔に彼女から借りた本を読み返している。 売れてないミュージシャンが、webに書きなぐったテキストが単行本になった本。 異常な知識と、すさまじいリズム感が直接脳髄に沁みるようです。 この本を貸してくれた彼女は、その後二回手首を切り、blogで「もういなくなります」と宣言したきり音信不通だ。この本はもう返さなくてもいいかい? 彼女の言葉は誰にも通じなかった。 趣旨も、論旨もなくだらだらとしゃべり続けたが、彼女の美しさが聞き手を増やし続けた。 聞き手と奴隷の数を。 最後の電話。 「加藤さん、なんで生きてるんですか?」 「死んでないからだよ」 「これからも生きるんですか?」 「そのうち死ぬよ」 ガシャンと電話は切られてそれっきり。 思い出しもしなかった。この本を読むまでは。 あらゆるフェティシズムがその到達点においては日常につながるように、あらゆるすばらしい性的行為が日常に還元されるように