当初、この書名に反感を覚えた。反感ゆえに、手にとってみた。書名が意味するところは、心の形成を考えるには脳科学のみでは不十分で、数学的な見方が必要なのだ、という主張であった。ここで、脳科学はデータを得る手続き、数学は普遍化と抽象化による理解と考えると、著者の主張は納得できる。 著者は「心が脳を表現する」と言う。これは、通常の「脳が心を作り出す」という考えと真逆である。他者の心の海に 浸 ( つ ) かることで、自己の脳が構築されてゆくと著者は考えるのだ。このことを、著者は数学者らしく「脳とは集合的な心を個々の心に落としこむための生物学的な器官である」と表現する。なかなか 素敵 ( すてき ) だ。僕の心はなぜ僕の脳にだけ宿っているのだろう。それが不思議で研究者の道を選んだ僕に、新しい見方をくれた。 数学史・哲学史を心の科学の歴史として読解する著者のスタイルは、極めて斬新である。僕は本書を、昨
![『心はすべて数学である』 津田一郎著 : ライフ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/21ce3ee1c3df1293cbebde2cdb69844b52038708/height=288;version=1;width=512/http%3A%2F%2Fwww.yomiuri.co.jp%2Fimg%2Fyol_icon.jpg)