悪しき哲学書か、よき教養小説か この本が世界的なベストセラーとなったのは、1990年代中頃のことだ。日本でも売れた。私が持っているのは、普及版という、あまり上等でない装丁で、上下巻に分けられてそれぞれ1000円で売られていたものであり、文庫ではなくこんなものが販売されたということがまた、この本の商業的な成功を物語っている、といってしまってよいだろう。 (私の持っている版の下巻の帯には、「日本で175万部の大ベストセラー」とある。これは実際大した数字だ。ちなみに世界中では、2300万部以上売れたらしい。) 私はつまり、二十代のちょうど中頃にこの本を読んだ訳だが、当時私は、半分(普及版の上巻)だけしか読まなかった。後半を読む気にはなれなかった。気に入らなかったからだ。 何が気に入らなかったか、といえば、哲学を「簡単に」理解しよう、あるいは理解させようとして扱う、その姿勢そのものが我慢ならなかっ