ときどき無性におそばが食べたくなる。看板が色褪せたそば屋さんで、一番手頃なもりそばを“大盛り”で注文し、キリッとした濃い味のそばでいただく。心が晴れる瞬間だ。 このそばつゆだが、醤油と出汁をあわせて作るのが一般的。ところが、江戸時代の初期では、味噌を使用していたらしい。 「今は『そばつゆ』というが、江戸時代には『そば汁』といっていた。そば汁の調味料は味噌から薄口しょうゆ(下がり醤油)、さらに濃口醤油へと変化した」 (飯野 亮一著「すし 天ぷら 蕎麦 うなぎ ――江戸四大名物食の誕生」ちくま学芸文庫、2016) 食文化研究家、飯野先生の著書に書かれている一文だ。どうやら、江戸のまちにそばが現れ始めたのは寛文年間(1661年~1673年)のことで、当初はそばつゆを味噌で作っていた。やがて、味噌で作ったそばつゆの味を調えるために、醤油を加えるようになり、最終的には醤油へ置き換わったようだ。 この