素敵な異性と出会うこともあれば、長く付き合っていた人と別れることもある。仕事で大きなプロジェクトが成功することもあれば、入社以来一番大きなミスをしてしまうこともある。ライターのカツセマサヒコさんが、生きていくうえで訪れるたくさんの喜びや悲しみにそっと寄り添うエッセイ、第3回。 「わたしたち、結婚するのかなあ」 プレッシャーを極力感じさせないトーンで、彼女はボールを投げた。 「ああ、うーん、どうだろうね……?」 配慮も虚しく、彼は視線を落として、その球を見逃す。 普段の何気ない会話は、これでもかというぐらい波長が合うのに、こと結婚の話になると、彼は、どうしても話題を変えたがった。 とはいえ彼女自身も、焦ってはいるものの、なぜか彼と生涯を共にするイメージが沸かなくて、「ムードが壊れるくらいなら」と、一度出したボールを引っ込めることが続いていた。 「まだ30歳だよ」と彼は言い、 「もう30歳だよ