映画『母なる証明 Mother』(dir. Bong Joon-ho, 2009)はトロットのリズムに合わせた「母」の踊りで首尾を飾る。報われない犠牲、解消しえない性欲、後に戻れない選択でまみれた人生からの一瞬の逸脱を集約した表現として解釈しうるだろうし、これらを併せて考えると『ポン PPONG』という題名から見出せる情緒はだいたい思い浮かべるだろう。 「ポンチャック」は成人歌謡とも呼ばれるトロットまたはトロット・テクノの蔑称である。そして「ポン」は果実、精髄などを指す俗語、あるいは性交、麻薬の隠語として使われる。リード・シングルで発表された“이창(Rear Window)”(2018)と“뱅버스(Bang Bus)”(2021)のヴィデオが露骨に性的隠喩・描写を含んだことに対して、私が過剰な意味の探り合いを警戒すると同時に特別に問題視するわけでもない理由は、まさに「ポン」にまつわる情緒が