バス路線の廃止に伴い、浜松市天竜区の「月停留所」が九月末で姿を消す。かつて、天竜川を挟んで西側の月地区とは舟が行き来していた。月停留所は、戦後相次いだダム建設以前の天竜川を知る貴重な存在といえる。(野瀬井寛) 午前六時五十一分、始発の次の横山小学校前停留所はひっそりとしていた。定刻通り現れたグレーの車体に緑色の帯が入ったバスは運転手一人だけ。運転手に「月まで」と告げると、「あ、月ですか」と驚いたような大きな声が返ってきた。 バスは緩いカーブを繰り返しながら時速五十キロほどで快調に走る。左は山で、右は天竜川。沿道に民家が少なくなり「次は月、月です」と放送が流れた。運賃表画面にも「次は月」の文字が映る。朝日に照らされた対岸の森を眺めていると、バスはにわかに速度を落とし「月」に止まった。