今からもう10年以上前のことになるが、当時私は上海の郊外に住んでいた。 上海人の友人の実家は、大半の家族が結婚してヨソへ移ったり、仕事で遠方に行ったりで家を出て、父は早くに病気で亡くなっていたので、広い家の中には80歳ぐらいの老母1人しか住んでいなかった。 「郊外」だが徒歩20分ぐらいのところに地下鉄の駅があり、中心地に行くのが便利な立地だったので、私はそこの一部屋を借りて数年暮らしていた。 そこは上海と言っても大都会の華やかさは全くなく、地味で汚く埃っぽい庶民の町で、四川省や安徽省、東北からの出稼ぎも多かった。 夕方は安徽人が出した臭豆腐の屋台が異臭を放ち、夜は重慶人の串焼き屋台が出て香ばしいニオイと油煙を撒き散らし、上海にしては珍しく犬を食わせる店があり(東北人が多いからだ)、月に1回は路上で酔っ払いが血まみれの大ゲンカをし(訛りから考えて東北人だろう)、週に1回はパジャマ姿の夫婦が路