それは、ある真っ暗な夜に起こった。 あなたが、1942年夏、ソ連に深く侵攻しているドイツ軍兵士だとしよう。そこは前線ではなく、比較的安全で、寝ずの番をすることもなく、警戒を緩めて一晩中ゆっくりと眠れる場所だ。ソ連軍は早々と退却していて、モスクワまではあとわずか30キロだ。 だが、まだ完全には気を抜けない。暗くなると、夜の魔女が音もなく飛んできて、これまで安全だと言われていた地域に爆弾を落としていき、軍事目標を破壊していく、という噂がささやかれていたのだ。半信半疑だが、噂はひとつやふたつではなく、もしかしたら本当のことなのかもしれないと不安になり神経は休まらない。