書いた人:向坂くじら 詩人。国語教室 ことぱ舎(埼玉県桶川市)代表。2022年第一詩集『とても小さな理解のための』(しろねこ社)、2023年初のエッセイ集『夫婦間における愛の適温』(百万年書房)を刊行。朝日新聞、共同通信社配信の各地方紙、「現代詩手帖」ほか雑誌に詩や書評を寄稿。2024年には自身初の小説『いなくなくならなくならないで』が第171回芥川賞候補作となる。 桶川に暮らしはじめて、とにかくよく歩くようになった。もともとそんなに運動が好きなほうではないはずなのに、日によっては一万歩も歩く。駅にも、学習支援のお手伝いをしているフリースクールのお仕事にも、買いものにも、ちょっとした外食にも、できるだけ歩いていきたいと思う。 もともと散歩が好きだったわけではない。桶川の前に住んでいた街は、坂道に延々と建売の住宅街が続き、歩いていてもくたびれるだけでおもしろくなかった。思春期の鬱屈(うっくつ