誰を味方にしようなどというから、間違うのだ。みんな、敵がいゝ。敵がないと事ができぬ――。江戸城の無血開城の立役者として、幕末・維新史にその名が刻まれる勝海舟。その勝が遺した証言集『海舟語録』(講談社学術文庫)は、苦境に立つ組織人がひもとくとよい珠玉のオーラルヒストリーだ。 政治的人間の透徹したまなざし 勝海舟その人についての説明は不要だろう。西郷隆盛との談判で、江戸城の無血開城を行った人物として、幕末・維新史にその名が刻まれる。文政6年(1823年)生まれの勝は明治32年(1899年)まで生き、べらんめえ調の証言を残した。『 氷川清話 』(江藤淳、松浦玲編/講談社学術文庫)の姉妹編をなす『 海舟語録 』(同)がそれだ。日本史の中でも屈指の政治的人間の語りは、道半ばで苦境に立たされた組織人がひもとくとよい珠玉のオーラルヒストリーだ。 「ナニ、誰を味方にしようなどといふから、間違うのだ。みンな