取材・文/白鳥士郎 「俺には自分の作品が無い」 薄暗いタクシーの後部座席で男が放ったその言葉に、耳を疑った。 何も言えなくなった私を血走った両目で見ながら、男はもう一度こう言った。 「俺は代表作が無い。ロードスみたいなものは、ラノベじゃあ書けなかった。だから俺は歴史小説を書く。新しいジャンルで勝負する。だから、お前は……!」 肩が触れ合うほどの距離で何度そう言われても、自分の耳を信じることができなかった。代表作が無い? 何を言っているんだこの人は? だってあなたは……あかほりさとるじゃないか。 あかほりは膨大な作品に携わってきた。 『NG騎士ラムネ&40』『セイバーマリオネット』『爆れつハンター』『MAZE☆爆熱時空』『天空戦記シュラト』『サクラ大戦』『らいむいろ戦奇譚』『MOUSE』『かしまし ~ガール・ミーツ・ガール~』……挙げればきりがないほどだ。 その同じ夜。 私はもう一人の男と並
このあいだ編集者の人と原稿の打ち合わせをしていたのだけど、いいアイデアが全く出てこなかった。 若い頃は人生の中で面白いことやワクワクすることがたくさんあったから、感じたことをそのまま書いていけばよかった。だけど、40代に入ったくらいから、心が動くことがあまりなくなってしまった。そうすると何を書けばいいかわからなくなった。若さの終わりを感じる。もう、自分に書けることはなくなってしまったんじゃないだろうか。 そんなことを思ったままに話すと、編集のTさんは「では、そういう気持ちをそのまま書くのはどうでしょうか」と言った。 「過ぎ去った若さについて書くとしても、50代になってから書くと、もう完全に枯れきった感じの遠い目線になってしまうと思うんですよ。でも、40代初めの今ならまだみずみずしい喪失感を書けるんじゃないでしょうか」 確かに、それはそうかもしれない。それは今しか書けないことな気がする。 4
白蔵 盈太/Nirone @「実は、拙者は。」5月双葉文庫で発売予定 @Via_Nirone7 小説の文章力っていうと、「素敵な比喩」「独自性のある文体」みたいなのをつい想像しがちなのだが、推敲の時に私が編集さんから受ける指摘なんて十中八九こんな感じで、実はそんなのは不要で「起こっていることを正確に全部言葉で書き表す」というのが一番の文章力なんじゃないかと最近は思っている。 pic.twitter.com/9YI6MEK0XK 2021-12-03 21:47:14 白蔵 盈太/Nirone @「実は、拙者は。」5/16双葉文庫で発売予定 @Via_Nirone7 しろくら えいたと読みます。 12歳息子と9歳娘に翻弄されつつ小説を書く46歳。既刊作:「わたしのイクメンブログ」(Nirone名義・漫画化)「あの日、松の廊下で」「義経じゃないほうの源平合戦」「桶狭間で死ぬ義元」「関ヶ原より熱
jp.quora.com 10代の頃、母親と同じような人生は絶対に歩みたくないと思っていた。 専業主婦で2人の娘を持ち、働きに出るのはパートくらい、常に家に居て、子どもと夫の帰りを待つ。母親の口から父親や生活の愚痴が出るとき、それが冗談めかしたものであったとしても、幼いわたしにとってはとても心がざわつくもので、聞いているのが本当にいやだった。 自分にしかできないことを。世界を変えるような何かを。 そんなことを夢見て、学んだり働いたりしてきたけれども、実際、凡人である自分ができることには限度があって、それを認めるのにだいぶ時間がかかったように思う。結婚もそうだった。最初の結婚は、まだなんとなく夢を見ていた。結婚は生活なので、夢を見たままではうまくいかず、離婚した。そうして今の夫と出会い、自分の足の置き場のようなものが分かってからは、ぐんとパートナーシップが楽になった。 わたしは頼りなくてだら
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