94歳女性,アルツハイマー型認知症の末期,寝たきり,意思疎通は不可能.胃瘻からの人工的水分,栄養補給法(以下,AHN)を行っている患者の娘からAHNの中止を求められた.そこで,日本老年医学会が発行した高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(以下,ガイドライン)1にそって,約2カ月の時間をかけて複数医師の診察,家族,訪問看護師ステーション責任者,ケアマネージャー,訪問介護事業所責任者,訪問入浴事業所責任者,介護用具貸出事業所責任者と話し合いを重ねた末に,AHNの中止を決断した.その後患者はインフルエンザに罹患し,肺炎を併発したため,AHNは中止せずに肺炎発症から7日目に永眠した.今回の症例で,胃瘻を中止することが命を断ち切る心の葛藤に家族は悩まされることや意思疎通のできない患者の本人らしさをどのように引き出すのかの難しさをあらためて実感した.今までにガイドラインにそってプロセスをふ
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第102回 延命治療の中止を巡って(10) クルーザン家の悲劇(1) 李 啓充 医師/作家(在ボストン) (2718号よりつづく) これまで9回にわたって,延命治療の中止を巡る米国での議論の歴史を概観してきたが,今回から,経管栄養中止の是非を巡って米連邦最高裁で争われた「ナンシー・クルーザン事件」について紹介しよう。 「ナンシー・クルーザン事件」とは ミズーリ州で,25歳の女性,ナンシー・クルーザンが,交通事故で車から投げ出されたのは1983年1月11日深夜のことだった。事故の原因はスピードの出し過ぎと推定されたが,救急車が到着したとき,ナンシーは車から10メートル以上離れた場所で,心肺停止の状態で発見された。蘇生処置が「成功」,心臓の拍動は戻ったが,少なくとも15分は心肺停止の状態にあったのではないかと見積もられた。 「交通事故で重傷」との連絡に,家族は
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