幼少期から、グルーシェンカは呑み込みの速さが超人的だった。何事にも吸収が早く、他人なら時間が掛かることでも、短期間であっさり習得することが出来た。名門貴族の家に生まれ豪邸に暮らし、教育の環境が最高だったので、他者から抜きんでるのは当然のことだった。周囲からは天才と絶賛され、本人も自分は天才であると思っており、他者の評価と自己評価が合致しているのだから、その認識に誤りなど無く、疑問を差し挟む余地などないと考えていた。そしてその絶賛のままに年端もいかない少女がスタンフォード大学に入ることになり、それなりに優秀な成績を収めたのだが、グルーシェンカはその後に約束されていた成功の道を固辞し、故郷のウクライナに帰ることにした。自分は呑み込みの速さが超人的なだけで、模範解答だけ憶えたらそこで頭打ちになる人間だとわかったからだ。最初の呑み込みがやたらによいだけで、グルーシェンカの知力の天井は低いのだった。