ベネディクト16世が1月25日、教皇になってから初めての教皇勅書「デウス・カリタス・エスト」(神は愛なり)を発した。ラツィンガー枢機卿時代はハーバーマスと対談したこともあるなど知的で哲学的なことで知られる教皇だが、ある意味で彼らしく「愛」という極めて思索的なテーマを選んだ格好だ。 同時代の社会に向けたパフォーマンスという趣もあった前教皇ヨハネ=パウロ2世の立場に比べると、ベネディクト16世の立場は古風にも見える。しかし、愛の問題は極めて現代的な問題なのだと現教皇は言う。 「愛」(amour)は今日最も「けがされている」もののひとつである。「今日、私たちが身体を称えるやり方は欺瞞的なものだ。エロスは単なる性に低められ、単に売り買いできるもの、ひとつの商品になっている。いや、人間自体が商品となっているのである」。ところで本来、「エロスは私たちを恍惚のうちに神的なものの方に高めてゆくはずのもので