数日後の或る朝、英和は仕事現場へ向かう道中に車を運転していた康明の様子を訝らずにはいられなかった。 口笛を吹きながら運転する彼のテンションは必要以上に高く感じられる。車中に流れる音楽のボリュームも何時もより大きい。違和感を覚えた英和は素直に問う。 「何や、えらい上機嫌やんけ、何かええ事でもあったんかいや?」 「ま~な」 康明はそれだけを答え軽快な捌きで車を走らせる。他人を干渉するのが嫌いな英和であってもこの耳を劈くような烈しい音楽を朝から聴かされるのは少々堪える。以前なら直ぐにでも文をつけていたであろう彼にも、親方が倒れてからは何処となく慎重な様子が窺える。 結局は何も言わなかったし言えなかった。でもそれは康明に対する哀れみに依って育まれた寛容さとは思いたくない、謂わば幼子が無理をしてまで己が非を認めようとはしない健気にも純粋で頑なな一時的な心情に類似していたのかもしれない。 現場に着いた