ブックマーク / honzaru.hatenablog.com (51)

  • 『やさしい猫』中島京子|日本の入国管理制度をすぐにでも考え直すべき - 書に耽る猿たち

    『やさしい』中島京子 ★ 中央公論新社 2021.11.6読了 今年の5月まで読売新聞の夕刊に連載されていた作品が単行化された。ジャケットだけみると、が出てくるほのぼのとしたお話なんだろうと予想してしまうが、これがどっこい、とても重いテーマなのだ。でも、心に残る良い小説だった。涙してしまうような場面が何度もあった。 タイトルの『やさしい』とは、スリランカ人のクマさん(当はクマラさん)がまだ小さかったマヤに話し聞かせてくれた母国に伝わる童話のようなもの。優しくておもしろいクマさんは色んなことを教えてくれる。 語り手のマヤは、母親のミユキさん(この作中ではさんづけ)と2人暮らし。ミユキさんは、震災ボランティアで知り合ったクマさんと1年後に再会しお互いに大切な存在となっていく。クマさんと3人でささやかではあるが楽しく暮らし、紆余曲折ありながらもようやく結婚することに。そんな矢先、クマさ

    『やさしい猫』中島京子|日本の入国管理制度をすぐにでも考え直すべき - 書に耽る猿たち
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    suoaei 2021/11/07
  • 『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー|日本語以上に流暢な文章で傑作ミステリを - 書に耽る猿たち

    『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー 駒月雅子/訳 創元推理文庫 2021.11.3読了 この作品はジョン・ディクスン・カーの多くの小説の中でも名作と名高く、そのトリックはアガサ・クリスティーをも脱帽させたと言わしめている。クリスティー作品を読むことをライフワークにしている者にとって、これは読むしかない。 前夫ネッドと離婚したばかりのイヴは、トビイ・ローズと知り合う。ローズ家の人たちにも気に入られ、トビイからの求婚を受けて婚約をした。ところがトビイの父親が書斎で殺害され、その容疑がイヴに降りかかる。何故、ありもしない証拠がー。 この小説のタイトルである「かぎ煙草入れ」がどんなものなのか私は知らなかった。吸う目的ではなく名前の通り「嗅ぐ」粉末を入れるものである。作中に登場するこのかぎ煙草入れは、ナポレオン皇帝のものでたいそうな骨董品としてマニアにはたまらないものらしい。 古い作品で

    『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー|日本語以上に流暢な文章で傑作ミステリを - 書に耽る猿たち
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    suoaei 2021/11/04
  • 『アレグリアとは仕事はできない』津村記久子|機械との付き合い方 - 書に耽る猿たち

    『アレグリアとは仕事はできない』津村記久子 ちくま文庫 2021.11.1読了 てっきり同僚の女子社員のことだと思っていたら、このアレグリアって複合機だったのか…。地質調査会社で働く事務員のミノベは、高機能と謳われた複合機と格闘する。1分間機能を果たしては2分の休憩をする、すぐに壊れる、メンテ会社にも判断できないエラーをする…。コピー機に八つ当たりしても仕方がないのに。 わかるなぁ。コピー機にもその機械なりの癖があって、詰まったら叩けば何とかなるみたいなところがあるからそれなりにうまく付き合っていくしかない。それでも機械にはたまにポンコツが存在するし、電化製品は運もある。スマホやパソコンなんて新品でも壊れたり調子が悪いことがある。「電化製品運が悪いね」と機械に詳しい人に言われたこともある。 コピー機の話だけで中編小説になっていることもまぁまぁすごいのだが、ミノベや先輩に共感したりしているう

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    suoaei 2021/11/02
  • 『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン|彩りに満ちた老探偵たちとともに - 書に耽る猿たち

    『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン 羽田詩津子/訳 ★★ ハヤカワポケットミステリー 2021.9.27読了 この小説、刊行前から結構話題になっていたので、私も気になってついつい購入した。アガサ・クリスティー著『火曜殺人クラブ』はまだ未読だけれど、ミス・マープルものは2冊読んでいて、人生経験豊かな老婦人探偵の雰囲気はなんとなくわかる。 これが著者の小説デビュー作とは信じられないほど上手い。前評判がいいと、期待し過ぎてがっかりなんてこともよくあるのだけど、すこぶるおもしろかった!ミステリの謎解き自体よりも、私はこの構成や文学的センスにうっとりしたのだ。こういうの、読みたかったんだよなぁ。 裕福な人達が居住する「クーパーズ・チェイス」という高齢者施設がある。そこに「木曜殺人クラブ」という木曜の黄昏時に会合をする探偵クラブがある。メンバーは、クラブの中心人物エリザベス、元看護師ジョイス、元々

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    suoaei 2021/09/29
  • 『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー|1番有名な作品 - 書に耽る猿たち

    『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー 青木久惠/訳 ハヤカワ文庫 2021.9.4読了 クリスティーさんの作品ではおそらく1番有名なのではないだろうか。例え読んだことがなくても、タイトルだけは知っているはずだ。各国で映画化ドラマ化され、オマージュ作品も数多い。タイトルだけでもオマージュされているイメージだ。 私ももちろん読んだことがある。小さい頃にクリスティーさんを知って一番最初に読んだのがたぶんこの作品だ。このストーリー展開自体にまんまとはまって夢中になったけれど、細かい描写や文体はゆっくりと味わうことは子供のときにはできない。再読してどう思うのかも楽しみだった。 兵隊島という島に招待された人たち。執事も含めた10人は、童謡になぞらえて次々に死んでいく。果たして何が起こっているのか、最後に残る人物が犯人なのか-。 結末がわかっていてもゾクゾクする展開で、切れ味鋭い文章が先へ先へ

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    suoaei 2021/09/06
  • 『生き物の死にざま』稲垣栄洋|自然界を懸命に生きる - 書に耽る猿たち

    『生き物の死にざま』稲垣栄洋 草思社 2021.9.2読了 先日、家の中に入り込んできた蚊を掃除機で吸い込んだ。なかなか叩くチャンスがなく(当は潰したくないけど家にいるのが気になる)、天井付近にいたのをなんとか仕留めた。蚊は掃除機の中で息絶えると思うが、生命力が強い虫は生きのびること、体内で卵を繁殖する能力を持つ場合は、自身が死んだとしても子孫を残す、つまり掃除機内で繁殖すると知りゾッとしたものだ。 この科学エッセイには、生き物がどのように生きるのかそしてどんな死にざなのかが書かれている。虫や魚、動物など全部で29種類。挿入されたイラストもリアルなのにかわいらしく描かれていて、動植物の身体を視覚的にも理解できる。 中でも興味深かったのが2つある。仰向けになって死の最期を待つ「セミ」は、よく考えたら空を見ているわけではない。目は地面の方を向いているのである。死んだと思ったら突然羽ばたくのが

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    suoaei 2021/09/03
  • 『トリニティ』窪美澄|何かを捨ててより良いものを拾って生きる - 書に耽る猿たち

    『トリニティ』窪美澄 ★ 新潮文庫 2021.9.1読了 トリニティとは、キリスト教でいう三位一体のことだ。三角形に表してバランスを保つような図をたまに見るような気がする。昔仕事でトリニティをサブタイトルにした商品を売ったことを思い出した。この作品では、女性の生き方についてトリニティに当たるのは、仕事結婚、男、子供、夢、何であるのかを問いかけている。 1960年代、ある出版社で出会う3人の女性。売れっ子ライターの登紀子、時代の寵児となるイラストレレーターの妙子、仕事より結婚を選ぶ出版社社員の鈴子。生きる目的も価値観も違う彼女たちが、どう思いどう生きたのか。窪さんの丁寧で細かな描写が存分に発揮され、情景が目の前に鮮やかに浮かび上がるようだ。 実はこの小説は、鈴子の孫である奈帆が就職がうまくいかずになりかけていたのを、登紀子から過去の話を聞きだすという設定になっている。昭和を生きた3人の女

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    suoaei 2021/09/02
  • 『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ|芸術の街ローマで溺れる - 書に耽る猿たち

    『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ 行方昭夫/訳 講談社文芸文庫 2021.8.28読了 この作品の存在は知らなかった。ヘンリー・ジェイムズさん最初の長編小説ということで、60年ぶりに新訳になったそうだ。恋愛小説のカテゴリになるのだと思うが、芸術と絡めたストーリー自体がとてもおもしろ読書の醍醐味を存分に味わえた。さすがジェイムズ氏、登場人物の心理描写が巧みである。 ロデリック・ハドソンが作った彫像作品を見て一目で才能を見出したローランド・マレットは、アメリカ・マサチューセッツ州ノーサンプトンという村を離れてローマに連れて行く。ロデリックは村にメアリという婚約者を残したままだ。そしてローマでは自らの感性を高め美術に没頭しながらも美貌のクリスチーナに出会い、翻弄されていく。 この4人の恋愛模様が芸術の街イタリア・ローマをメインにして繰り広げられる。まずはローマの街の建造物や美術作品

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    suoaei 2021/08/29
  • 『複眼人』呉明益|地球規模のファンタジー - 書に耽る猿たち

    『複眼人』呉明益(ご・めいえき) 小栗山智/訳 KADOKAWA  2021.8.23読了 東京オリンピック2020で新しく「サーフィン」が競技登録された。まだ記憶に新しいと思うが、男子サーフィンで見事銀メダルを獲得した五十嵐カノアさんが、競技終了後に海に向かってひざまづき、「海の神様、ありがとう」とお礼をする姿が目に焼きついた。海、そして自然に感謝する姿。この作品を読んでいる間、その光景が頭に浮かんだ。 太平洋に浮かぶワヨワヨ島という架空の島がある。人々は自然と共生し、言葉だけで文字が存在しない。少年アトレは、島から旅に出る。冒頭を読んで壮大なファンタジーが始まるのかと予想できたが、少し違った。 SFあり神話あり色々と詰まっている。それでも全体でうまくまとまっているのがこののすごいところ。の帯でル・グィンさんが述べているように、こんな小説は読んだことがない、まさにこれ。 台湾の東海岸

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    suoaei 2021/08/24
  • 『めぐらし屋』堀江敏幸|蕗子ではなくて蕗子さん - 書に耽る猿たち

    『めぐらし屋』堀江敏幸 新潮文庫 2021.8.20読了 めぐらし屋ってなんだろう。想像をめぐらせる夢想家なのか、屋とついているから何かのお店なのか。タイトルから小説の中身を思いめぐらせること、これもなかなか楽しい。 父親を亡くした蕗子(ふきこ)さんは、父親が住んでいた家で荷物整理をしていると、あるノートをみつけた。そのノートには蕗子さんが子供の頃に書いた絵が貼ってあり、懐かしさを憶える。そしてノートには「めぐらし屋」と書いてあった。 この小説がやわらかくのんびりと、そしてあたたかく感じるのは、蕗子さんのおっとりとした性格や父親をはじめとする登場人物が優しいからだけではない。主人公蕗子のことを「蕗子さん」と、さんづけで呼んでいるのが大きい。読んでいくうちにこれは蕗子じゃなくて蕗子さんじゃないとダメなんだよなぁと気付く。 父親が何をしていたのか、自分の知らない父親の想いと生き方について、関わ

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    suoaei 2021/08/21
  • 『ある子馬裁判の記』ジェイムズ・オールドリッジ|みんなで議論をしよう|古い印刷技術のこと - 書に耽る猿たち

    『ある子馬裁判の記』ジェイムズ・オールドリッジ 中村妙子/訳 評論社 2021.8.18読了 ★ これは評論社の児童図書館シリーズに入っている子供向けのである。どうしてこのを読んだかというと、先日訪れた池袋の梟書茶房「ふくろう文庫」で自ら選んだものなのだ。ふくろう文庫についてはこちらから。 honzaru.hatenablog.com 語り手はスコティーの友達であるぼく、名前はキット。キットにはトムという名前でいつも一緒の弟がいる。父親は街の弁護士、母や姉も時々登場する。貧しい家のスコティー(スコット)が大事にしていたポニー(子馬)が急にいなくなる。一方で、裕福な家に育つが足が不自由なジョジーはお気に入りのポニーを見つけ馬車にする。そして今度はジョジーのポニーがいなくなる。 果たしてこのポニーは同じポニーなのか。スコティーとジョジー、どちらのポニーなのだろうか。街全体を二分するような大

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    suoaei 2021/08/19
  • 『狐狼の血』柚月裕子|ガミさんの男意気と生き方 - 書に耽る猿たち

    『狐狼の血』柚月裕子 角川文庫 2021.8.15読了 女性なのに、よくこんなヤクザ&警察もの書けるよなぁと尊敬する。警察ものはわかるけど、暴力団の話って言葉も特殊で難しいと思う。取材するわけにもいかないし。広島弁も巧みで、特にガミさん(呉原東署暴力団係班長:大上)のキャラクターは抜きん出ている。 刑事になりたての日岡秀一は、広島県呉原市呉原東署(架空の都市)に配属となる。コンビを組むことになったのは敏腕刑事である大上だ。大上は、暴力団の捜査に関しては超一流だが、暴力団との癒着の噂がある。2人で暴力団が関与している事件について追いかけていくという警察小説である。 このように伝えること自体がネタバレになりかねない(以下を読むかどうかは注意してください)のだけど、、実は途中までは予想通りの展開というイメージだった。しかし終盤に全体の構図が見渡せたときにはあっと驚き、ラストはスカッとする気持ちに

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    suoaei 2021/08/17
  • 『ドルジェル伯の舞踏会』ラディゲ|読み終えて余韻をしみじみと - 書に耽る猿たち

    『ドルジェル伯の舞踏会』レーモン・ラディゲ 渋谷豊/訳 光文社古典新訳文庫 2021.8.2読了 人はどんなふうにして自分が誰かを愛していると気付くのだろう。フランソワの内に愛が宿った瞬間の描写を読んだときにふと思った。そしてドルジェル伯夫人・マオのそれについての描写でも同様に。マオが自分の恋心に気付くのがこうも遅いとは、鈍感なのか何なのか。自分には愛する夫がいるという錯覚ゆえに気付かなかったのか。 19世紀初頭のフランスで、ドルジェル伯・アンヌ、ドルジェル伯夫人・マオ、青年フランソワの三角関係が、繊細で美しい文体で描かれている。この関係性からは争いごとが起きてもおかしくないのに、3人の関係はむしろ良好である。そしてフランソワの母親も重要な役割を果たしている。 作品はこんな風に終わるのか…。この先が気になってしまうところで物語は幕を閉じる。恋愛小説のカテゴリーなのに、愛する者同士がお互いに

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    suoaei 2021/08/03
  • 『戦いすんで日が暮れて』佐藤愛子|苦難を乗り切ったからこそ - 書に耽る猿たち

    『戦いすんで日が暮れて』佐藤愛子 講談社文庫 2021.7.31読了 おんとし97歳の佐藤愛子さんは、とても美しく気品に溢れている。もちろん外見が若々しいのもそうだが、内面から湧き上がるこの美しさは、彼女自らが強く気高く生き抜いてきた賜物だと言える。 過去に佐藤愛子さんの大河小説『血脈』を読んだ時、あまりのおもしろさに没頭してしまった。自伝的小説ということで、佐藤家の濃い血がすさまじい勢いで感じられた。その血が愛子さんにもまた流れている。 表題作の『戦いすんで日が暮れて』は1969年に直木賞を受賞された作品。こんなに短い作品も受賞するんだなと意外に思う。愛子さんの実体験に基づいた小説で、苦労した話なのにユーモア溢れた作品に仕上がっている。 夫の会社がある日突然倒産、そこから怒りながらも前を向き、馬車馬のように働き借金を返済していくというストーリー。「我々は善意にこそ用心しなくてはならない」

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    suoaei 2021/08/01
  • 『ブラック・チェンバー・ミュージック』阿部和重|エンタメ感満載|オリンピック卓球女子、文学的解説者のこと - 書に耽る猿たち

    『ブラック・チェンバー・ミュージック』阿部和重 毎日新聞出版 2021.7.29読了 待ってました、阿部和重さん!新刊が出ると必ず読んでいる作家の1人。阿部和重さんと川上未映子さんのご夫婦は最強すぎる。今回のは毎日新聞出版からということで珍しいと思ったのだが、そうだこれは新聞に連載されていたんだった。阿部さんの小説を連載するなんて、なかなかやるな。新聞向けの作品とは言えない気がするのだけど。 冒頭からトランプ大統領やら金正恩朝鮮労働党委員長らの名前が飛び交う。国際政治的な側面を含んだある男性の波瀾万丈なストーリー。執行猶予期間中で前科持ちの中年横口健二は、暴力団の知り合いから仕事を依頼される。 これがある資料の調査をするという極秘任務であった。言葉を喋れないハナコという不法滞在者も一緒についてきた。めまぐるしい怒涛の展開に目が離せない。関わる人たちは危ない奴らなんだけど、横口のあっけらか

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    suoaei 2021/07/30
  • 『葬儀の日』松浦理英子|独創的な感性と世界観 - 書に耽る猿たち

    『葬儀の日』松浦理英子 河出文庫 2021.7.26読了 かなり前に新聞だかの書評を読んで気になり、手帳の「読みたいリスト」に書いていた。先週手に入れて、ようやく今自分のなかで読み時になった。松浦理英子さんのは初めて。講談社主催の「群像新人文学賞」の選考委員の1人が松浦さんだ。昨日読んだ『貝に続く場所にて』が今年の同賞受賞作である。 honzaru.hatenablog.com 葬式で「泣き屋」という職業を勤める私は「笑い屋」を職業とする老女と出会う。相反する2人なのに何故だか離れられなくなる。昔TVドラマで観たサスペンスものを思い出した。悲しみを表現するために葬儀屋の社員か家族に涙を流す役がいた。当にそんな職業ないしは役割が有るのだろうかと、子供ながらに疑問を持つと同時にショックを受けたのを今でも覚えている。 実はこの作品、自分の内面の二面性を描いたもののようだ。一見180度離れた

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    suoaei 2021/07/27
  • 『貝に続く場所にて』石沢麻依|大切なものを失ってもなお - 書に耽る猿たち

    『貝に続く場所にて』石沢麻依 ☆ 講談社 2021.7.25読了 先日、第165回芥川賞・直木賞が発表された。ついこの間『推し、燃ゆ』で宇佐見りんさんが盛り上がっていたのに、もう半年経ったのか。個人的には年に1回でいいと思うのだけど、出版業界を盛り上げていくためには良いのかなぁ。候補作が選ばれた段階で読むことはあまりなく、受賞作が決まったらどれか1冊くらいは単行を購入している。 名前も知らなかったこの石沢さんの作品を選んだのは、講談社主催の今年の群像新人文学賞も受賞されているからだ。デビュー作で新人賞と芥川賞を受賞するなんて、人がリモート会見で「嬉しいというよりも恐ろしい」と表現した気持ちになるのがわからなくもない。映像で見た石沢さんの儚げで色気を纏った印象もどことなく気になった。雰囲気のある女性だと思った。 舞台はドイツの街ゲッティンゲン。ベルリンやフランクフルトのように有名な都市で

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    suoaei 2021/07/26
  • 『汚れなき子』ロミー・ハウスマン|違和感を少しずつ埋めていくミステリー - 書に耽る猿たち

    『汚(けが)れなき子』ロミー・ハウスマン 長田紫乃/訳 小学館文庫 2021.7.24読了 ある女性が事故のため救急車で病院に搬送された。一緒に運ばれたのは13歳のハナという少女。ハナの証言から、2人はある男性に監禁されていたことがわかる。物語は、ハナ、運ばれてきた女性レナ、そしてレナの父親マティアスの視点によって語られていく。レナは14年前に失踪して以来、見つかっていないのだがー。 読み進めていくにつれ、だんだん違和感というか、何かおかしいなと思い、その真相を知るべく頁をめくる手が止まらなくなる。「え?どういうこと?」「誤植では?」となる場面も多いのだが、そんなにしんどくはない。それぞれの語り手のパートが比較的短く、すぐに次の語り手にバトンタッチするという構成だからだ。 我が子を守る母親の愛情と、失踪した娘を失念深く探し続ける父親の姿に胸を打たれる。それから、報道のあり方にもやはり憤りを

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    suoaei 2021/07/25
  • 『文鳥・夢十夜』夏目漱石|古き良き日本語の読み仮名が良い - 書に耽る猿たち

    『文鳥・夢十夜』夏目漱石 新潮文庫 2021.7.22読了 久しぶりに夏目漱石さんの作品を読んだ。長編は結構読んでいるのだけど、短編はもしかしたら初めてかもしれない。夏だから、ちょっとホラー要素かなということで以前から気になっていた『夢十夜』もようやく読了。 『文鳥』 小学生の時、自宅に小鳥を10羽以上飼っている友達がいた。当時は鳥の良さが全くわからなかったものだが、大人になってくると段々鳥類の美しさがわかるようになるものだ。動物園の鳥類のブースには大人の方が多い。 三重吉にすすめられて文鳥を飼うことになった「自分」は、鳥籠の中で生きる文鳥の姿に、生きることへの儚さと美しさを見出す。執筆しながら文鳥を気にかけつつも、最後は家人のせいにして死なせてしまう。なんて自分勝手な、と思いながら読んでいたが、これが人間というものの浅ましさなのかと感じた。短い作品であるが、漱石氏の筆致を存分に味わえる。

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    suoaei 2021/07/23
  • 『悪い娘の悪戯』マリオ・バルガス=リョサ|濃いハチミツ色の瞳に翻弄される - 書に耽る猿たち

    『悪い娘(こ)の悪戯』マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦・八重樫由貴子/訳 ★★ 作品社 2021.7.21読了 ペルー人のリカルドは、一生をかけて1人の女性を愛した。たとえ彼女が魔性の女だとしても。こんなに翻弄されなくても!言いなりにならなくても!また振られちゃうのに!と思いながらも、リカルドはどこか楽しんでもいるようで、結局男って振り回されるのが楽しいんじゃないの。 濃いハチミツ色の瞳を持つ彼女。「濃いハチミツ色の瞳」という表現がとても好きだ。見る角度で目の動きが異なるような、透明感があるようで濁りもあるハチミツのような瞳、彼女がいかに魅力的なのかがわかる。彼女は名前も素性もころころ変わるが、やはりニーニャ・マラと呼ぼうか。 ニーニャを想いながらリカルドの人生は紆余曲折するのだが、恋愛小説にとどまらず、リカルドの波瀾万丈の人生が最高におもしろい。そして、出会う人物たちのなんと魅力的で

    『悪い娘の悪戯』マリオ・バルガス=リョサ|濃いハチミツ色の瞳に翻弄される - 書に耽る猿たち
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    suoaei 2021/07/22