「僕はプロサッカー選手ですよね?」 南国特有の雷雨が、何かを訴えかけるように激しく地面を叩くと、たちまちアスファルトに水溜まりを拵(こしら)えた。短気で飽きっぽい雨雲が15分足らずで立ち去り、入れ替わるように灼熱の太陽が顔を出す。太陽は雨雲の尻ぬぐいでもするように地上を乾かし、辺りにはうんざりするような熱気と湿気が充満した。赤道近くに位置し、年中高温多湿のシンガポールという国で、それはありふれた光景だった。 2009年春。短パン、Tシャツ姿の彼は自転車で練習場へ向かうところだった。 「中学の部活かよ」。自分に突っ込みを入れながらペダルを強く踏み込むと、噴き出してきた汗で洗い立てのシャツがぐっしょりと濡れた。マイカーを持たなかったのは暮らし始めて間もないのもあったが、自動車税が目をむくほどに高く、自転車で十分事足りたからだ。試合の日は自宅近くの停留所でバスを捕まえて集合場所に向かう。日本では