いわゆる「平成の大合併」で、全国の市町村の数は、半分近い約1700に減った。ひらがなやカタカナ、あるいは地理的な実態にあわない名前の市が生まれて、物議を醸したものだ。同時に、いくつかの由緒ある自治体名がなくなった。 ▼地名は「土地の精霊」だとする民俗学者の谷川健一さんは、「ほしいままの命名が横行している」と嘆いたものだ。もっとも、地名に対する日本人の関心が高まったことも事実である。 ▼東日本大震災の後、地名があらためて脚光を浴びている。大災害を経験した先人たちが、「ここは危ないぞ」とのメッセージを後世に残したというのだ。たとえば、地図情報コンサルタントの遠藤宏之さんは、岩手県の釜石や宮城県の塩竃にみられる『カマ』に注目する。「古語の『噛マ』に通じ、津波により湾曲型に浸食された地形を意味する」(『地名は災害を警告する』技術評論社)。 ▼広島市北部の土砂災害で、とりわけ被害が大きかったのが、安