企業広報マンの見えない敵との心理戦 今から10年ほど昔、製パン業界で伝説の広報マンが存在した。事件は突然始まる。A社の製造した菓子パンに2週間に渡って毎日開始される悪意の異物混入事件だった。異物はカッターナイフの刃、決まって販売店舗の現場で菓子パンに包材外部からねじ込まれていた。 毎日菓子パンの種類が変わり、混入された場所も4都県、14市区にまたがっていた。当初所轄警察署は悪質な異物混入事件として犯人逮捕を捜査刑事に厳命していたが、毎日所轄エリアを超えた場所で事件が発生し、捜査は混乱していた。 さらに、異物が混入された販売店舗はいずれも大規模小売店舗で、顧客の出入りが激しく監視カメラでは犯人を特定することは不可能だった。しかも犯行は夕方から夜にかけて特に込み合う時間に集中していた。犯人は予想以上に頭のいい人間だった。 最初の混入事件発覚の際には、毎日犯行が継続されるとは予想していなかった。