ドイツを拠点とし、現代文学シーンで活躍し続けてきた作家・多和田葉子が「献灯使(The Emissary)」で全米図書賞翻訳文学部門を受賞した。日本語とドイツ語で実作を行う多言語作家である彼女の作品は、これまで「言語の変容」が大きな主題として描かれてきた。本稿では文芸翻訳を通して「翻訳の創造性」について考察する。 「でも結局、作者の言葉じゃないんでしょ?」 と、これまでに何度も言われた。出版不況と呼ばれる昨今、文芸作品の初版のほとんどは1万部を超えることはなく、海外文学の読み手というのも決して多いとはいえない。 ぼくのまわりの話ではあるけれど、翻訳を通して読む海外の文芸作品に対して苦手意識を持っている友人は多い。「翻訳調」と呼ばれる独特の言い回しであったり、馴染みの薄い文化、憶えにくい登場人物の名前など、友人たちはその理由をたくさん挙げることができ、最終的にたどり着くのが冒頭に掲げたひとこと