『グラウンド・ゼロを書く 日本文学と原爆』(ジョン・W・トリート著)の原著の刊行は1995年のことなので、むろん著者にその意図があったわけではないが、いわゆる「ネトウヨ」的なものの源流などについて考えさせられる部分があった。 1966年発表の井伏鱒二の『黒い雨』は高く評価され広く読み継がれることになるがその刊行後、、意外にも山本健吉や江藤淳といった保守派からも絶賛された。 現在では『黒い雨』は原爆の悲惨を語り継ぐ「戦後民主主義」的な作品として受けとめている人が多いであろう。それをなぜ保守派が絶賛したのだろうか。その理由は山本の「地についた平常人」の次の箇所を読むとよくわかる。 「[他の原爆文学の作品は]あまりにハードボイルドに書かれ過ぎた。あまりに政治の手に汚され過ぎた。あまりに安易な符牒で呼ばれ過ぎた。井伏さんがこれを書いてくれなかったら、私は日本人として、何時までもやりきれない思いを