世界最大手の半導体製造企業であるTSMCは、1987年に台湾で創業された。いまや時価総額は60兆円に迫る。トヨタ自動車のおよそ2倍である。 ここでは、ジャーナリスト・湯之上隆氏による『半導体有事』(文春新書)より一部抜粋して紹介する。国際政治を左右するほどの巨大企業を一代で築き上げたモリス・チャン氏は、いかなる人物なのか。(全2回の1回目/続きを読む) ◆◆◆ TSMCは1987年にモリス・チャンが創業した。筆者は、2013年6月17日に放送された、NHK「島耕作のアジア立志伝」の「“下請け”が世界を変えた」を見て、初めて、その経緯を知った。そして、モリス・チャンがTSMCを創業するまでの驚きのドラマに心を打たれた。 モリス・チャンは、1931年、銀行の頭取の息子として中国で生まれ、香港で育った。ところが、日中戦争と中国内戦で運命が変わる。家族とともに、飲まず食わずで逃げ惑う日々が続いた。