『孤独死』― ニーチェに学ぶ 東京都監察医務院 監察医長 小島原將直 Ein Vortrag fur alle und keinen ( 万人に与える講演、何びとにも与えぬ講演 ) 1.はじめに 人は身内や知人の死をどんなに断腸の思いで経験しても死ぬ人の気持ちは絶対にわか りません。自分が死んでいないからです。 「孤独死」という言葉があります。マスメディアや一部の法医学徒の杓子定規な決ま り文句ですが、誰にも看取られない病死のことであり、特に独居者で、かつ発見が遅れ 大なり小なり死後変化が進行したような場合に使われます。 しかしながら孤独と死は全く別な概念であり、 これが結びつく典型例は自殺でしょう。 一方、監察医が扱う病死の大半は即死に近い極めて短時間の死であり、果たして死に 逝く人が死を意識して助けを求めながら孤独に死んで行ったのかは甚だ疑問です。 そこで私の経験した「孤独死」の事例