惨禍経て家族築く パソコンの画面に浮かんだ物憂げな少女の写真。1945年8月9日、米軍による史上初の原子爆弾投下から3日後の広島で撮影され、背景に余じんがくすぶる焦土が見て取れる。その一枚の写真と、成人女性が写る別の一枚が重なり合う様子を、東京都調布市の会社員、藤井哲伸(てつのぶ)さん(57)が万感の思いで見つめた。 昨年11月、都内の東京歯科大にある研究室。重ねた写真の2人は、歯並びや目の幅、眉の形が一致する。マウスを操る手を止め、橋本正次教授(法歯学)が言った。「両者を別人とするような明らかな相違は全く認められません」。藤井さんは眼鏡を外し、目を凝らした。「言葉になりませんね」。写真の少女が母親だと認められた瞬間だった。