(文藝春秋・2420円) 未知で奥深い世界に誘う「ブリコラージュ」 誰も行かないところに行って、誰も思いつかないことをする、辺境ノンフィクション作家の著者は、イラク奥地の湿地帯探検に出かけることを思い立つ。 東京に暮らすイラク人から現地の言葉を習い、世界中の川を旅した環境保全の専門家、隊長こと山田高司氏を誘い、準備にも余念はない。現地では腕のいい舟大工を探し、伝統的な舟を作ってもらい、「名人の舟」をパスポート代わりに、悠々と湿地帯を巡る旅になるはずだったが、読者は、わりといつまでたっても「名人の舟に乗る話」を読むことはできない。イラク自体、渡航するのに危険が伴う場所であるだけでなく、秘境湿地帯を取材するには、文化や風習の違いも含め、それはいろいろな困難や珍事が伴う。 本書は、ティグリス川とユーフラテス川の合流点付近を舞台にしたノンフィクションだ。現在はイラクの東南、イランやクウェートにも近