(2020年11月2日 東京新聞に掲載) 立って歌うことを命令し、従わなければ処罰する―。どこかの全体主義的な国の話ではない。日本の首都・東京都の教育委員会が教員に対し、今なお卒業式などで運用する「君が代斉唱強制システム」だ。労働と教育、双方の国際機関から「教員の権利を侵害している」とレッドカードを突き付けられ、改善を促されている。ところが、文部科学省と都教委は無視を決め込んでいる。(石井紀代美) 3年も前から不採用を通告 ひと言も書き漏らすまいと、必死でペンを走らせた。驚きと不安で、ノートの文字がゆがむ。「とんでもないことが私の身に降りかかったと思いました」。都立高校教諭の川村佐和さん(62)は、2019年1月、校長室で起きた出来事を振り返る。 川村さんは同年の3月末、定年退職を控えていた。退職後、希望者は基本的に、65歳まで働くことができる。川村さんもその前日、再任用の合格通知を受けて