その日、お父さんが潜んでいた場所はアポッターバードだとニュースは伝えていたが、それは真実ではない。私たちが住んでいたのは世田谷区の小さな一軒家だったし、彼は四月二十九日の午後六時、下北沢駅の西口にあるオリジン弁当の前で拉致されたのだった。チキン南蛮弁当と、小松菜と舞茸のおひたしを買って出てきたお父さんは、店の前に絶妙のタイミングですべり込んできた作業用バンにほんの数秒で手際よく押し込まれ、車内で待ちかまえる五人の特殊部隊に両手両足をぐるぐる巻きにされると、甲州街道を経由して横田飛行場まで連れていかれた。その後のことはよくわかっていない。ことによると、生きたまま飛行機でアポッターバードへ連れていかれたのかもしれないし、横田へ着く前に死んでしまったのかもしれない。 私はそんなあれこれを、日本にいるお父さんの友だちを通して知ることになる。「横田に着いてからのことは調べようがないし、ほとんど情報は