恩地孝四郎《白い花》 そもそも、植物学の専門家が花の絵を前にしたら、どのように見えるのでしょうか。少し意地悪な出題ですが、恩地孝四郎《白い花》を見てください。 リンネがその基礎を築いた分類学に従えば、花とは、オシベやメシベ、花弁の形や数などから植物の種を判断するための指標でしかありません。そのため、この作品のように「花」と題されてしまうと、斜めの線が○○で、左側を覆う花ひらのような部分が○○で、恐らくイネ科の植物なのかな、と考えてしまいます。でもきっとそれは誤りなのでしょうね。 この絵の作者、恩地孝四郎は、日本で初めて抽象的な表現を取り入れた画家のひとり。画家自身の内にある生気が、形や色彩そのものへと充溢(じゅういつ)し独特の「抒情」をたたえる画面を生み出そうとしました。すると、ここでの白い花とは現実の具体的な花を描いているのではなく、恩地の心の中に花開いた詩情のようなものかもしれません。