昔堅気の父は、「おれは男だ!」という自尊心の塊のような人間であった。自分から他人に喧嘩を売ることはなかったが、売られた喧嘩はかならず買うことにしていたし、買った喧嘩は必ず勝たねばならないと決めていた。勝つまでは諦めないのである。気が短いくせに執念深い。 地上権のある家を買った父の建物を今回のように何の断わりもなく地主と地上げ屋が勝手に解体している現場にもし居合わせたら、今はなき父は一体どのような行動に出ていたであろうかと、思わずにはおられない。 おそらく目を吊り上げて怒り狂ったであろう。地声の大きな父は、以前にあまり大きな声で怒鳴って鼓膜が破れてしまったことがある。 随分昔のことになるが隣の家の主が、我が家との間の通路に勝手に木の壁を作ったことがあった。夕方、会社から帰ってきた父はそのことを母から聴くやいなや、大きなバールとナタを持って通路へ出ていった。ものすごく大きな声が近所中に響き渡り