この度、芥川龍之介賞を受けられた黒田夏子さんの『abさんご』を、月刊文藝春秋で読んだ。 横書きで、ひらがなを多用したこの小説は、すでに報じられているように、非常に洗練されており、また、言葉のクオリアの織りなす世界として、広がりを持っている。芥川賞を受けるにふさわしいだろう。 賞の命は、その選考で決まる。今回のような作品を選ぶことで、芥川賞は、商業主義とイコールではない矜持を示していると言える。しかし、その姿勢が逆に話題を呼び、黒田さんの小説も売れるのだから、賞の設立者の菊池寛の言う「興業」としても、奥が深い。 黒田夏子さん、そしてそれを選んだ選考委員の方々、賞を運営している日本文学振興会(その母体である文藝春秋)は、以上のような意味でgood job!である。 さて、『abさんご』を読みながら、私は考えていたことが一つあった。 私はカフカの『審判』や『城』が好きだが、これらの小説を原語であ