ーーカタタタタ……。 明かりの消えた部屋に、キーボードを叩く軽やかな音が間断なく聞こえている。 彼はお気に入りのハンモックにしなやかな体躯を横たえ、夜の街を見下ろしていた。 20XX年。一月。 大都会O阪。深夜二時。 このような時間でも街は動いている。暗い夜の底をたゆたうビーズのような光は、人間たちが確かに生きてここに暮らしているという証だ。緊急車両が高いサイレン音とともに彼の住む高層マンション下の通りを走り抜けていった。 ーー重い。 明滅する黄色い光を眺めながら心の中でつぶやく。 年が改まったばかりだというのに、晴れやかな気分はもう微塵もない。年頭に起こった大災害のせいもある。しかしそれだけではない。 人々は些細なことで怒り、鋭い言の葉で誰かを切り裂く。かと思えば、なんでもないことで笑う。心からの笑いではない。見えない不安に駆り立てられ、そこから逃れようとしているかのように彼の目には見え