そのスプーンは変わっていた。 高校生のDと10歳も離れた姉は、長い入院生活の中で、毎日のように手に持って眺めていた。 「そのスプーン、よく手にしてるけど、何かあるの?」 と聞くと、姉は 「このスプーンは、母の形見なの。これを見ていると、少し元気になれるのよ。」 と言う。幼い頃に母を亡くしたDは、母の記憶があまりない。姉は見るのに満足したのか、スプーンを木箱に入れ、赤い布をかけて蓋をした。 「もし、私が生きてこの病院を出られなかったら、これをDにもらって欲しいの。私の形見として。」 「嫌よ。そんな縁起でもない話、聞きたくないわ。」 「はいはい。Dは、ちょっとでも暗い話になると不機嫌になるんだから。そうだ、今日は天気もいいし、散歩に付き合ってくれないかな。」 Dは姉が車椅子に移るのを手伝い、病院の庭に出た…。 あれから、もう半年が経った。結局、姉に頼まれた通り、木箱に入ったスプーンはDがもらい
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