その手紙は突然、自宅のポストに届いたという。角の丸い特徴的な文字が、ぽつぽつと謳(うた)うように便箋に並んでいた。 『大学時代、体育の授業でセカンドを守ったことがあります』 手紙の中に、そんなくだりがあった。守備位置につく二塁手の動き、そこから見える景色は「とても多彩だと感じた」-。そう書いてあったのだと明かす顔がほころんだ。 DeNAに今季加入した田中浩康内野手(34)が、その『宝物』を手にしたきっかけは昨年10月、ヤクルトから受けた戦力外通告だった。2軍打撃コーチの打診を固辞し、現役続行の道を選んだ。 12年間親しんだチームを去るにあたり、「その人」のことが心に浮かんだ。ノーベル賞候補にも名前があがる世界的な小説家。忍耐強い燕党で、ヤクルトのファンクラブ名誉会員でもある。