ニューヨーク州スケネクタディ市のスーパーマーケットの鮮魚部で働くスローン・カラフェロは、いつも同じいでたちで職場に現れた。バイク乗りだったせいもあるが、どんなに暑い日でも青いウィンドブレーカーにバックパックという姿でやって来る。そして、らせん綴じのノートを肌身離さず持っている。 29歳のスローンは職場と同じスケネクタディ市のYMCA寮に住んでいたが、他の寮生たちとの付き合いを避けていた。言葉を交わすことさえ避けていた。親しい友人や親しい異性がいるふうもなく、ストイックにボクシング・ジムに通い続けていた。 そのジムの経営者ジェームズ・コマート氏は、スローンが以前住んでいたアパートの貸主でもあった。さすがに付き合いの長いコマート氏に対しては少しは心を許していたようで、「僕はもう何年も家族と話をしたことがないんですよ」などと漏らしたこともあった。 スローンは職場の同僚たちに、変な質問をぶつけるこ