性と薬物に溺れる若者たちを書いた『限りなく透明に近いブルー』で1976年に芥川賞を受けた著者の新刊は、意外にも老いがテーマである。 「もう、60歳です。自分でも老いを感じますから」 出版社をリストラされ、ホームレスへの転落を真剣に悩む男性。定年退職しテレビばかり見る夫と別れ、結婚相談所に通う女性。会社や家族など自分を守るものが剥ぎ取られ、「個があらわになり、コミュニケーションのバランスが崩れた」中高年の男女を描く5編を収めた。 女性が離婚で400万円の慰謝料をもらい、食品の試食販売で月15万円を得ているなど、金銭の出入りを冷徹なまでに細かく記す。 「『老後は悠々自適』と言うけれど、実際には全体の2割だけ。残り2割は困窮層、6割は中間層でした。お金は、物の考え方をはじめ人間を規定する。経済状況に触れない老いの小説はありえません」 著者も2002年、椎間板ヘルニアを患った。入院はせず、リハビリ