はじめに 本稿は、拙著『タイポグラフィの領域※1』(以下、『領域』)について、その結論部を補足する試みである。 『領域』を執筆した動機は、タイポグラフィという言葉の定義化の必要を痛感したからである。まずこの国では、本来の意味と齟齬をきたす使われ方がなされていると見えたからであり、次に本質的な概念の抽出が、その語を口にする者にとっては必要だろうと考えたことにある。そのためには時代の技術変化に支配される環境下においても一定不変である概念を引き出す努力が不可欠であり、その定義化という作業では歴史を遡らざるを得ないことから、可能な限りの広い渉猟と慎重さが要求される。それに応えられたかはかなり心もとないが、幸運にも発表の機会を得て、ここに四半世紀を迎えようとしている。 『領域』の結論では、「タイポグラフィとは活字書体による言葉の再現・描写である」と示し※2、定義の一例として提案した。 タイポグラフィ
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