By RYU MURAKAMI for THE NEW YORK TIMES 物資不足でも、希望は溢れている 村上龍 先週の金曜日、午後のまだ早いうちに、私は横浜の港町にある自宅を出た。そして午後3時少し前、常宿にしている東京、新宿のホテルでチェックインした。大抵一週間のうちの3・4日を執筆したり、資料を集めたり、その他もろもろの仕事をこなすためにそのホテルを利用しているのだ。 私が部屋に入ったその時、地震は起きた。瓦礫の下敷きになってしまうと思い、水の入ったボトル、クッキーの箱、ブランデーの瓶を掴んで頑丈そうなライティングデスクの下に飛び込んだ。今になって考えてみると、もしその30階建てのホテルが崩壊したとしたら、私に最後のブランデーを味わう余韻はなかったと思う。しかしこれ程度ではあるが、防衛手段をとったことで、私は完全にパニック状態にならずに済んだ。 すぐに拡声装置から緊急のアナウンス