2009年4月26日、正田醤油スタジアム群馬。雨雲に覆われた空は暗く、光が射し込んでくる気配はどこにもなかった。彼はずぶ濡れになりながら、ピッチ脇でウォームアップを続けていた。 「いつでも行けるのに」。募(つの)る焦りをかみ殺すのに必死だった。ベンチから交代選手が呼ばれる。0−2でリードされ、ホームチームとしては攻撃的選手を投入する展開。しかし呼ばれたのは高卒ルーキーだった。 「交代枠はもうひとつ残っている。最後までチャンスを待つんだ」。心を奮い立たせ、辛抱を決め込んだ。 2009シーズン、J2ザスパ草津に入団した彼は9節までわずか22分間の出場にとどまっていた。この日の対戦相手は古巣の東京ヴェルディだっただけに気持ちも高ぶったが、「焦るなよ」と自分に言い聞かせ、感情を理性で押し殺した。試合は淡々と流れ、ロスタイムに入った。スタジアムに熱がわき起こるようなシーンは訪れず、チームは交代枠を残