リヤカーを引いて魚などを売り歩く山形県庄内地方の行商女性「アバ」が、消滅の危機に立たされている。 アバが商売の拠点としてきた「田川地方行商協同組合」(鶴岡市末広町)が、3月31日付で解散したためだ。昔ながらの行商を最後まで続けてきた6人のうち、大半は解散を機に、商売をたたむ。時代の変化の波にさらされ、庄内を代表する日常風景が、また一つ消えようとしている。 庄内産の魚介類がズラリと並ぶ組合の荷さばき所。アバを始めて半世紀以上になる鶴岡市由良、五十嵐一子(いちこ)さん(77)は、買い付けた甘エビなどを、いつも通りにリヤカーへ積み込んだ。午前7時過ぎから市内を回り始め、顔なじみの個人宅を訪ねては、「何がいいがや」と威勢よく声を張り上げる。得意先を一巡りして組合へ戻ると、時計は午後1時を回っていた。 「アバ」とは、庄内弁で「母親」の意味。行商する女性は「浜のアバ」と呼ばれ、庄内地方を題材にした文学