あぶったチーズがトロリととろける。ただそれだけなのに、「アルプスの少女ハイジ」放送から44年を経て今なお、思い出の名場面として語り継がれる。丁寧な生活描写の中に命の喜びを込める高畑勲監督の作風が、くっきり表れている。 革新者にして完成者だった。SFでもコメディーでもない「日常の暮らし」が1年間のテレビアニメになるのか。「ハイジ」で挑み、極めた。当時としては異例の海外ロケハンを敢行し、綿密な考証で生活の実感を裏付けた。 戦前の兵庫・西宮などの街並みを正確に再現した上で、空襲の惨禍と、やせ衰えていく幼子を描ききった「火垂るの墓」はリアリズムの極みだ。「ホーホケキョ となりの山田くん」では、かすれて途切れた鉛筆の描線を生かして動かす実験に挑戦。その手法を、最後の作品「かぐや姫の物語」で過激なまでに突き詰めた。 東映動画(現・東映アニメーション)時代の初監督映画「太陽の王子 ホルスの大冒険」から野