ベストセラー小説『陰日向に咲く』は映画にもなり、テレビでもますます活躍の場を広げている人気芸人・劇団ひとり。いまや彼の名前を知らない人はいない。だが、「劇団ひとり」という固有名詞が一人歩きするにつれて、彼が「劇団」を名乗っていることの意味は少しずつ忘れられているような気がする。 もともとひとりは、その卓越した人間観察眼と演技力で、人間の情けない部分を丹念に描く1人コントを得意としていた。彼の作風の特徴は、キャラクターを演じる際に、何らかの具体的な人物像を外部から模倣するのではなく、人物の内面に入り込み、それをそのまま生きることによってコントを成立させる、ということだ。 例えば、『都会のナポレオン』『都会のシェイクスピア』という2本のDVDでは、ひとりが何人かの決まった役柄を演じるショートコントとともに、それらのキャラクターが日常生活をどのように送っているのかを密着取材したという設定のフェイ